《MUMEI》
悪夢
伊刈は楽しむように、優里の両手首をベルトで固定した。
「伊刈さん。水着姿でこれは危険じゃないですか?」
「大丈夫だ。自力で外せる」
そう言うと伊刈は、右の足首を掴んだ。優里は両手に力を入れながら言った。
「自力じゃ外れません」
「ならお客さんに哀願するんだな」
「嘘つき!」
伊刈は右足首を固定すると、左足首を持った。これ以上開けないほどの大開脚に、優里は抵抗した。
「やめてください。こんなに開くのは屈辱です」
「女にとって大股開きは屈辱的ポーズか?」
「はい」優里は睨んだ。
「だから客が興奮するんだ」
「冗談じゃない!」優里は伊刈の手を蹴って抵抗した。「みんな根本的に考え方間違ってる…アタタタタタ、やめて、やめて」
アキレス腱固めを決められ、優里は苦悶の表情。
「言うこと聞くか?」
「悔しい!」
伊刈は左足首を固定すると、ベッドに乗り、優里を見下ろした。
「何だ今の反抗的な態度は?」
「え?」優里は怯えた。
「舐めてんのか?」
「まさか」
「舐めてんのか?」
「ごめんなさい」
すると、伊刈は笑った。
「よし。素直に謝ったから今回だけは許してやる。次はないぞ」
優里は悲しい顔をして目を閉じた。
「優里。おまえはかわいい。ごめんなさいなんて言われたら、何度でも許してしまいそうだ」
伊刈は、優里のおなかや脚を優しく触る。
優里はもがいた。手足を拘束されては、逃げようがない。
「伊刈さん。レイプされちゃうなんてことはないですよね?」
「安心しろ。常連客だ。今までトラブルを起こしたことはない。23歳のサラリーマンだ。なかなかのイケメンだぞ」
優里は身じろぎした。
「では優里。たっぷりかわいがってもらえ」
触りたくて仕方ないのか、伊刈はまたおなかを触ってから部屋を出ていった。
緊張の一瞬。夜這いプレイだから、寝ているところを襲う設定なのだろう。
優里は落ち着かないそぶりで、体を動かしながら待った。
手足に力を入れてみる。ダメだ。自力で外すのは不可能。このまま客に好きにされてしまうのか。
諦めるのはまだ早い。必死に哀願してほどいてもらうしかない。
優里がそんなことを考えていると、ドアが開いた。
唇を噛む。どんな男か。客が部屋に上がる。ベッドの前まで来た。目が合う。
「え!」
優里は血の気が失せた。
「何で?」客は驚きの表情がすぐ笑顔に変わり、ベッドに歩み寄る。「何で係長がこんなところにいるの?」
「名倉君。違うの…」
こんな悪夢。天から見放されたとしか思えない。
「待ってください。まずほどいて」
「ほどくわけないじゃん」
優里は呼吸が乱れる。水着姿を見られること自体恥ずかしいが、大開脚を晒しているのが悔しい。
「一生のお願い。ほどいて」
「係長。人のお願いは土足で踏んづけておいて、自分のお願いだけ聞いてもらおうなんて甘いよ」
寛喜は狼の目だ。容赦なく優里のおなかを触る。
「ちょっと待ってください!」
「かわいい!」
寛喜が興奮しないわけがない。愛しの優里が水着姿で手足を拘束されて無抵抗なのだ。
寛喜はいきなり服を脱いだ。
「寛喜さん待って」
「さん付けなんかしたってダメだよ」
寛喜は全裸になってしまった。優里は恐怖におののいた。
「お願い許して」
「何を許してほしいの?」優位に立ったワルは意地悪だ。
「触らないで。あと、水着は絶対取らないで」
「裸は恥ずかしい?」笑顔で迫る。
「恥ずかしいです」
顔を紅潮させる優里を、寛喜は睨んだ。
「俺を全否定した女に情けをかける気はないよ」
ドキッとするほど冷たい目。しかし優里は諦めたくなかった。
「寛喜さん。もう一度ちゃんと話を聞きますから」
「金払ってるんだよ。この体好きにさせてもらうよ」
「待って、埋め合わせはしますから。食事でも映画でも」
「優里。裸にして愛撫できるんだよ。埋め合わせになると思う?」
「……」

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