《MUMEI》
肝試しと花火
3日目。部員の一人が言い出した。

―肝だめしをやろう―と。

どうやら商店街に買い物しに行ったさいに、町人からこの町に伝わる話を聞いたらしい。

その内容は、怪談めいていた。

話を聞いた部員達の大半は怖がりながらも興味を持ったようだった。

しかし私を含め、少数の部員達は難色を示した。

理由は本気で怖がったり、言い伝えを軽く見るなとの真面目な意見。

顧問は苦笑いしながら、行方を見ていた。

結局、肝だめし派と私の留守番派に分かれることになった。

肝だめし派は大半の部員を連れ、今夜の相談に入った。

少数ながらも私の意見が通ったのは、副部長という立場のおかげだろう。

しかも肝だめしを言い出したのは部長の親友。

本当に肝だめしを楽しみにしているのか、謎だ。

しかし留守番派の中には肝だめし派の部員達を、本気で気付かっている人もいた。

さんざん言っても止めないのだから、ほおっておけと言う意見もあった。

なので私は一つの提案を出した。

―花火をしよう―と。

花火は昔から、人成らざるものの心を慰める為に行われることもある。

だから商店街でたくさんの花火を買ってやろうと。


―町の言い伝えはこんな話―。

昔、そこの地方では有名な武将がいた。

しかし戦に敗れ、この土地にたどり着いた。

数人の部下を連れただけの武将は、なけなしの財産を町人に与え、ここにかくまうように頼んだ。

町人はそれを承諾した。

しかし武将の首を狙う敵の大将の部下が、町に来た。

そしてこう言った。

―敵の首を差し出せば、主から褒美が出よう―と。

その夜。町人達は武将達に酒をふるまった。酔っている隙に武器を盗み、隠した。

そして酔いつぶれたところを襲い、武将の首を取った。

部下達もみな殺され、首を切られながら武将は叫んだ。

―鬼にも勝る非情な行為! 首が無くとも恨みは消えぬ!―と。

そうして町人達は褒美を得た。

しかしそれと引き替えにかった恨みは重く、広く町人達に襲いかかった。

首を無くした死体が夜な夜な町の中を徘徊し、疫病を撒き散らし、恐怖を与えた。

そして大勢の町人が苦しんだ。だから決めた。

町の守り神である大岩を動かし、死体を潰そうと。

そしてそれは成功した。

町人は大岩の前に、新たな守り神としてお地蔵さんを建てた。

罪を許してもらう為に。

効果は今でも続いていると言う。

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