《MUMEI》
迫り来る恐怖
私達は瞬き一つできず、身動きもできない。

首の無い武者達は、障子戸一枚向こうにいる。

こちらを伺っている様子。

やがて一人の武者の手が上がり、戸に手をかけた。

思わず叫び出しそうになったその時―。

障子戸に新たな影が映った。

その影は小さく、まるで子供のようだった。

武者達の動きが止まった。

小さな影に意識を向けている。

―やがて、武者達は向きを変え、廊下を再び歩き出した。

武者達の影が見えなくなると、二人は気絶した。

私は震えながらも再び障子戸に視線を向けた。

廊下は静かで、影も形も無くなっていた。




そして次の日。とんでもない事態になってしまった。

肝だめし派の部員達、全員が高熱で倒れた。

本来なら今日帰るはずだったが、肝だめし派は救急車で病院に行くことになった。

残った留守番派の私達も無事だとは言えなかった。

何故なら、全員が武者達の姿を見たからだ。

いや、ただしくは私と、私と同室だった二人は影しか見なかった。

しかし他の部員達は話によれば、武者達は部屋の中までやってきたらしい。

だが部員達の顔を見て、すぐに出て行った。

きっと違うことに気付いたんだろう。


私達は肝だめしに行かなかった。

しかし充分過ぎほどの恐怖を体験した。

顧問は病院に行き、私達は副顧問が来るまで、病院に行った部員達の荷物を片付けていた。

みな暗い面持ちで、病院に行った部員達への恨みごとを呟いていた。

帰っても、この部活は以前のようには戻らないだろう。

荷物を玄関前に置き、副顧問を待っている時間、私はお地蔵さんに別れを告げに来た。

宿泊場から借りたバケツに水とスポンジを入れ、ミネラルウォーターのペットボトルと饅頭をバックに入れて行った。

お地蔵さんの裏に回り、大岩のところに来た。   

昼間でも雑木林の中は薄暗く、大岩の存在を不気味にしていた。

ここに昨夜の武者達が眠っているのか。

ふと視線をそらすと、そこには刻まれたばかりのキズ跡が…。

私は無言で、スポンジで擦りはじめた。

これで全て消えるとは思えないけれど、時間の許す限り拭いた。

心の中でたくさん謝りながら。

やがて副顧問から電話がきて、私は作業をやめた。

…やっぱりキレイは消えない。

薄くはなったけど、触れば感触がある。

ため息がでてしまう。

最後にお地蔵さんに新しい水とお饅頭を供えた。

精一杯謝罪をこめて、手を合わせた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫