《MUMEI》
・・・・
 浅紫色の光が宙を走る。そして繋がり、一つの魔法陣を描いた。光は強く瞬くととんでもない量の水を出現させ、大津波を引き起こした。
 漆黒の炎を鎮火しようと大津波は勢いよく覆いかぶさる、が黒い炎を飲み込むどころか津波は一瞬にして蒸発してしまう。
 「まだです。“天の水門(デルージェ)”」
 エリザの呪文を耳にするとカイルは即座に赤い空を見上げた。頭上には無数の巨大な魔法陣が浮かび上がっており、地平線までそれは広がっていた。
 そして魔法陣から出現したのは大瀑布。大瀑布が落下を始めれば同時に強風が巻き起こり、黒炎を引き上げていく。
 大瀑布を忌々しく思いカイルは鋭く睨むが、吹き荒れる強風に切れ長な目を細めた。
 黒い大地へと落下していく水は創世記に神が降らせた雨と同じであり、長きに渡り地上を覆ったとされる神の怒りの象徴である。浄化と破壊を司りすべてを無に変えてしまうそれは、いくらカイルの怨恨が強く、深く根付いていようとお構いなしに浄化を始め炎を消し去るのだ。

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