《MUMEI》
「親父、なんで、なんで仁の奴死んだんだょぉ…、俺仁に何も…、何も…」
家族で出かけると仁はいつも俺達から一歩後ろを歩いていた。
じーちゃんや親戚に仁は血が繋がらないって小さい頃から聞かされてたから、仁はちょっと違う家族だって思ってて、心の隅で常に他人だって思ってて…
中学時代、反抗期で荒れ始めた頃、喫煙が仁に見つかって、兄貴ずらでめちゃめちゃ怒られた事があった。
その時とにかくムカついて、俺は仁に向かって他人のくせに…
なんて…言ってしまった。
あの後だ、仁って呼んでくれって始まったのは…。
あの時の仁の顔がいつも、今でも頭から離れない。
俺はあの親戚と、じーちゃんと一緒だ。
俺は…
俺は…
「仁に俺ごめんって言ってない!言ってねーよお!兄貴って呼ばしてくれよ〜ッ!!」
俺達はこれ以上声が出ないんじゃないかって勢いで激しく泣いた。
親父は床を何度も殴り、お袋はそんな親父をグシャグシャな顔で抱きしめたり、背中を摩っていた。
俺は仁…、兄貴が燃やされている炉の扉に向かって何度も何度も謝った。
一番痛かったのは兄貴だったんだ、今まで気づかなくてごめんなさい。
兄貴は真実の中じゃとても生きられなかったんだ。
いつも孤独で、でも頑張って俺達の傍にいた。
俺の罪はもう償う事はできない。
「アーッ、ああ…大切な…大切な俺の息子を返せーッッッ!!」
「仁、仁、私のじんー…返してよー…うぅう…じんー…」
でも、親父とお袋は違っていた。
料理の才能の事で区別する事はあっても俺達を常に平等に育ててきた。
周りに何を言われても兄貴を守っていた。
それは拓兄も…
…俺は親父に聞いた。
「兄貴は…親父の本当の子供だった?」
「当たり前だ、大切な俺の本当の息子だ…」
「惇は?惇はどうなの?」
奮えるお袋の問いに、俺は炉に向かい答えた。
「兄貴だよ、俺の本当の…、大切な兄貴…
今までも…これからも…ずっと……」
俺達は兄貴が出て来るまでその場で兄貴と話をした。
こんなにも腹を割って兄貴と話をしたのは始めてだった。
兄貴が居なくなってから、兄貴が本当に大切な家族だったって漸く気がついた。
骨壷に納められた兄貴は酷く暖かかった。焼かれた後だから暖かいのは頭では分かっていても、俺はその温もりは兄貴の体温だと思いたかった。
また降り出した雪。
白い息。
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