《MUMEI》
開花
―お売りしたキャンドルですが、開花しましたか?―

青年に聞かれ、ふと何日か前のことを思い出した。 

確かにあのキャンドルは蕾から花開いた。

そのことを伝えると、青年は安堵した笑みを浮かべた。

―良かった。ならばあなたに幸せは訪れたんですね―

この問いには笑顔で答えた。

結局、キャンドルは買えなかったが、青年との会話で心が満ちた。

彼はあのキャンドルで自分が幸せになることを心から望み、喜んでくれている。

そのことが分かっただけでも来たかいがあった。

イヤな気分はすっかり消え去り、家に帰った。

だがその夜、キャンドルをつけて夢見た内容は、担任が車にひかれて亡くなる夢だった。

恐ろしい夢、悪夢のはずなのに、顔は笑ってしまった。



次の日の朝。

キャンドルがいよいよ残り少なくなっていることに気付いた。

良い夢を見ているほど、長くキャンドルをつけてしまう。

特にここのところは、自分の思い描く通りの夢が見られるせいか、キャンドルは急速に量を減らしていった。

もはや花の形はなく、あと一回火を付ければ終わりだろう。

最後はどんな夢を見ようかと、楽しく考えながら学校へ行った。


…だが。

学校へ行くと、様子のおかしさにすぐ気付いた。

教室に入るとすぐ、クラスメート達が話しかけてきた。

―担任が死んだよ―

―昨夜、車にひかれたんだって―

…それは昨夜見た夢の内容そのままだった。

しかし少しも恐ろしくは無かった。

けれど顔では不安を表し、心の中で笑った。

コレでもう、自分を不快にさせるものはいなくなったのだと―。



その夜、原型をとどめていないキャンドルを前に、考えていた。

最後の夢は何を見ようか、とか。

この不思議なキャンドルは2つめも同じ作用を与えてくれるのか、とか。

さまざまなことを考えているうちに、時間はすでに深夜になってしまった。

慌てて、とりあえず一つの願いを決め、キャンドルに火を付けた。




そしてその夜見た夢は、不思議だった。

暗い夢の中で、もう一人の自分と出会う。

イヤな笑い方をする自分はこう言った。

―燃え尽きる。全ては灰になる―

何のことか尋ねようとして口を開けたまま固まった。

目の前の自分の体が、サラサラと崩れ始めた。

言葉通り、燃え尽き、灰になっていく。

そして気付く。

自分の体も同じように灰になり、崩れていく。

言葉にならない悲鳴が、口からほとばしった。

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