《MUMEI》
羞恥
優里がバスタオルを体に巻くと、寛喜は言った。
「玄関まで見送って」
「はい」
これで終わりと思った優里は甘かった。狼寛喜にはまだ第2ラウンドがあるのだ。
「優里チャン、じゃあね」寛喜はドアを開ける。
「はい」優里は演技で手を振ってみせた。
寛喜も手を振ると見せて、いきなり優里の腕を引っ張った。
「キャア!」
裸足のまま廊下に出され、優里は慌てた。
「ちょっと何するの!」
「エレベーターの前まで見送って」
「やめて!」
エレベーターは遠い。しかし強い力で引っ張られては、どうしようもない。
「だれかに見られたら恥ずかしいでしょう。手放して」
「やだ」
寛喜は笑いながらエレベーターのスイッチを押す。優里は辺りを見回して落ち着かない。
エレベーターが開いた。寛喜は腕を引っ張った。
「キャア!」
エレベーターの中に入れられてしまった優里は、真っ赤な顔をして抵抗した。
「やめて!」
優里はエレベーターのスイッチを押そうとする寛喜を遮る。だが1Fのボタンを押し、閉を押してしまった。ドアが閉じてエレベーターが下り始めた。
優里はバスタオルを両手で掴みながら怒鳴った。
「ちょっと。下にだれかいたらどうすんのよ!」
「何その態度?」
「え?」
寛喜は面白がってバスタオルを取ろうとする。優里はしゃがみ込んでバスタオルにしがみついた。
「わかった、ごめんなさい、やめて、タオルだけはやめて」
「かわゆい」
エレベーターが1階に到着。幸い人はいなかった。寛喜はまた優里の腕を引っ張った。
「何をする気!」
粘ったが力では勝てない。外に連れ出されてしまった。さらに寛喜はエレベーターの8Fボタンと閉を押して上げてしまった。
優里はさすがに激怒した。
「何考えて生きてんのあんた。バッカじゃないの!」
「バカ?」
冷酷な顔で歩み寄る寛喜。優里は焦った。悔しいけど怖い。
「ごめんなさい、寛喜君。今の言葉は取り消しますから許して」
命のバスタオルを取られたらアウトだ。優里はプライドを捨てて両手を合わせた。
「ククク。優里チャン、今こそ俺をあっさりふったお返しをさせてもらうよ」
優里はおなかに手を当てながら壁まで下がった。
「お願い、タオルだけはやめて」
寛喜が襲いかかる。
「キャア!」
バスタオルを奪われた。寛喜はタオルを回しながら外へ向かう。
「さようなら!」
「待って!」叫んだ。
「そんな大きい声出すと人が来るよ」
優里は蒼白な顔で胸と下を腕や膝で隠しながら、寛喜に哀願した。
「お願い、返して」
「じゃあ、ここまで取りにおいで」
優里は近寄ってタオルを掴もうとしたが、寛喜は素早く優里の両手首を取ってクロスさせた。
「やめて、やめて、やめて」
バスタオルで後ろ手に縛られてしまう。もがく優里をながめながら、寛喜は言った。
「優里チャン、セクシーだよ」
殴ってやりたいほど頭に来ている相手に哀願する悔しさは、たまらない。
「ほどいて」
「俺、あんな冷たいふられ方されたの初めてだよ」
真顔でそう言うと、寛喜は優里を素早く抱き上げてしまった。
「キャア!」
両手首を縛られているから抵抗できない。
「待って、寛喜君、何をする気?」
「そういう、つぶらな瞳は告白したときに見せて欲しかったね」
「待ってください寛喜さん。お話はちゃんと聞きますから」
「かわゆい、泣きそうな顔してる」
寛喜はそのまま歩いた。顔面蒼白の優里は脚をバタバタさせて暴れた。
「待って何をするの!」
「もちろん道路に置き去りにするよ」
「それだけは許して。わかりますでしょ。あたし終わっちゃうよ」
しかし寛喜は残忍な目で歩き始めた。
「赤っ恥かかしてあげる」
「やめて、何でも言うこと聞きますから」
涙を流す優里を見て、寛喜は足を止めた。
「ホント?」
「はい」
優里は泣きそうな顔で寛喜を見つめた。
「かわゆい優里チャン!」

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