《MUMEI》
【解放】後
マカは『自分』に『何』も求めていない。

そう思うと悲しくて、情けなかった。

だから望んだ。

―情けない『自分』からの【解放】を―

なのにマカは認めてくれない。

勉強もスポーツも、成績が上がった。

意見をはっきり言うようになって、周囲の評判も良くなった。

なのにマカは喜んでくれない。

「足りない…のかな?」

まだ【解放】が足りない。だからマカは満足してくれない。

「…なら」

手に持っていたケータイを手慣れた操作で例のサイトを開いた。

パスワードを入力すると、画面が変わった。

真っ黒の画面に浮かぶ、青白い魔法陣。

サイトに登録すると、質問メールが日に一度届いた。

他愛のない質問だった。 

だがある日、自分は選ばれたというメールが届いた。

そのメールにあったパスワードは、【解放】する為の魔法のパスワード。

サイトにアクセスし、パスワードを入力すると見れるこの魔法陣。

この魔法陣を見ていると、自分の中から何かが溢れ出してくる。

すると何にでも自信を持てるようになった。

不思議なことに、見れば見るほど気分が良くなる。

―あたしは選ばれた。【解放】するにふさわしい者として…―

その時、マカはミナの家の前にいた。

無表情ながらも、その心境は複雑だった。

「杞憂ならいいが…」

クラスメート達から聞いた【解放】後のこと。

ミナはすでに中毒症状が出ていた。

忠告はしていたが、ミナには届いたのか…。

ガシャーンッ!

突如響いた音に、マカは顔を上げた。

ミナの家の窓ガラスが割れた音だ。

マカはミナの家に入った。

そしてミナは…。

―ぐるるるぅっ…―

理性の失った眼をして、リビングで暴れていた。

「チッ、予想通りか」

マカは舌打ちし、素早くリビング内を見回した。

リビングの隅に、ミナの両親がお互いを抱き締め合いながら小さくなっていた。

「ミナのご両親、そこにいろよ」

ミナの両親はいきなり現れたマカの言葉に、首を縦に振って答えた。

「ミナっ!」

マカが呼びかけると、ミナは手に持っていたイスを落とし、こちらを向いた。

「今度は理性から【解放】されることを望んだか…。いや、自分を抑える者達からか? どちらにしろ、そんな強さは偽物だ」

―ぐうっ…―

「言いたいことがあるなら、聞こう。ただし、場所を変えてな!」

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