《MUMEI》
「今年の雪は偉く早いな」
親父はそう言いながら空を見上げた。
俺は兄貴を抱きしめながら親父に言う。
「親父ごめん…、跡継ぐって言ったのに…」
親父は兄貴の入っている箱に触れる。
そして、真っ赤な目で俺を見つめてきた。
親父は無言のまま俺の肩を叩き、そして少し笑った。
▽
告別式の行われる葬儀場まで俺は兄貴を抱きしめていた。
一向に冷える気配もない兄貴。
そして告別式は、しめやかに執り行なわれた。
通夜の時とは一転し、俺は冷静さを失い、ひたすら泣きじゃくった。
そんな俺に親父は何度も俺の背中を摩ってきた。
告別式が終わった後、じーちゃんや親戚は俺達の異変に気付き、何も余計な事は言って来なかった。
その日の内に兄貴は先に眠る、実のお袋の入っている墓に入れられた。
兄貴は墓に入る寸前まで温かだった。
▽
「…兄貴」
「惇…」
「あにきーッ……」
俺が兄貴に抱き着いた途端、兄貴もまた、激しく泣きだした。
「兄貴、俺兄貴に謝ってな…、酷い事言ったのに…兄貴に酷い事言ったのに…」
まだまだ自由のきかない不自由な体で兄貴は俺を抱きしめてきた。
「ごめんな惇、本当にごめんな、意地悪ばっかしてごめんな?」
「ぢがう…、俺が一番悪かった、自分の事ばっか…考えて兄貴達の気持ち一切考えようと…しなかった…」
早く退院して仁に会いたいと兄貴は言った。
兄貴の分まで生きて、兄貴の生きた証を残したいと言った。
積もりそうな勢いで降る雪。
真っ白な雪雲。
俺と兄貴は泣きながら、
これからは兄貴の分も頑張って生きていくと、
一緒に辛さを乗り越えていこうと…
一から兄弟を始めようと…
雪空に消えた兄貴に約束した。
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