《MUMEI》

「今年の雪は偉く早いな」

親父はそう言いながら空を見上げた。


俺は兄貴を抱きしめながら親父に言う。

「親父ごめん…、跡継ぐって言ったのに…」

親父は兄貴の入っている箱に触れる。
そして、真っ赤な目で俺を見つめてきた。


親父は無言のまま俺の肩を叩き、そして少し笑った。









告別式の行われる葬儀場まで俺は兄貴を抱きしめていた。



一向に冷える気配もない兄貴。





そして告別式は、しめやかに執り行なわれた。




通夜の時とは一転し、俺は冷静さを失い、ひたすら泣きじゃくった。


そんな俺に親父は何度も俺の背中を摩ってきた。



告別式が終わった後、じーちゃんや親戚は俺達の異変に気付き、何も余計な事は言って来なかった。





その日の内に兄貴は先に眠る、実のお袋の入っている墓に入れられた。






兄貴は墓に入る寸前まで温かだった。








「…兄貴」




「惇…」



「あにきーッ……」


俺が兄貴に抱き着いた途端、兄貴もまた、激しく泣きだした。



「兄貴、俺兄貴に謝ってな…、酷い事言ったのに…兄貴に酷い事言ったのに…」


まだまだ自由のきかない不自由な体で兄貴は俺を抱きしめてきた。




「ごめんな惇、本当にごめんな、意地悪ばっかしてごめんな?」

「ぢがう…、俺が一番悪かった、自分の事ばっか…考えて兄貴達の気持ち一切考えようと…しなかった…」










早く退院して仁に会いたいと兄貴は言った。










兄貴の分まで生きて、兄貴の生きた証を残したいと言った。








積もりそうな勢いで降る雪。





真っ白な雪雲。










俺と兄貴は泣きながら、







これからは兄貴の分も頑張って生きていくと、



一緒に辛さを乗り越えていこうと…





一から兄弟を始めようと…








雪空に消えた兄貴に約束した。














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