《MUMEI》
火遊
二人は、外に出た。夕方になっていたが、夏の空はまだ明るい。
「冬広さん。何てお礼を言っていいかわかりません。本当にありがとうございました。命の恩人です」
優里は深々と頭を下げた。
「いやいや、二人とも無事で良かった」
命を張って助けてくれたのに、恩着せがましい態度は皆無で、きさくに笑う冬広。優里は好感以上のものを抱いていた。
「冬広さん。このご恩は一生忘れません」
美しい表情の優里に見とれながら、冬広は言った。
「着替える?」
「え?」
「あそこ入ろうか?」
見ると、怪しい感じのラブホテル。優里は唇を結んですまし顔だ。
「あ、勘違いしないで。何もしないから。着替えるだけだから」
「あ、はい」
優里は『お礼』のことだと思いきり勘違いしたので、顔を赤くした。
「あたしも、汗びっしょりだから、シャワー浴びたい」
二人はホテルに入った。
着替えるだけの割りには入念に部屋を選ぶ冬広。優里は任せた。
エレベーターで三階へ。冬広はさすがに興奮していた。まさか優里と二人きりでホテルに入れるとは。
部屋は広かった。ソファに荷物を置くと、優里が言った。
「じゃっ、先にシャワー浴びてきます」
「あ、うん」
冬広はソファにすわる。シャワーの音。そそる音だ。嫌でも裸の優里を想像する。
彼女が出てきた。女神のように思っていた女性と、二人きりでこんないけない場所にいる。夢のようだった。
優里は大胆にもバスタオル一枚で出てきた。
「どうぞ、冬広さんも浴びるでしょ?」
濡れた髪がセクシーだ。ベッドに押し倒したい衝動を抑え、冬広はバスルームに入った。
優里は服を着ずにベッドに腰をかけた。
「あれ?」
なぜかベッドに手枷足枷が付いている。優里は笑った。これは冬広を追及する必要がある。
冬広が出てきた。冬広も裸だ。バスタオルを腰に巻いた状態で優里を見た。
「冬広さん。そういえば入念に部屋を選んでたけど、あたしを縛ろうと思ったの?」
「え?」
「何で手枷足枷が付いているんですか?」
笑顔で追及する優里。冬広はとぼけた。
「偶然だよ偶然」
「冬広さんてテクニシャンなの?」
「いや、そんな」冬広は頭をかいた。
優里はいきなりベッドに大の字になると、聞いた。
「マンションで冬広さん。あたしがこうやって無抵抗なのに、裸を見ようとしたでしょ?」
「いやいやいや。あれはほら、まさか君がそんな状況とは知らなかったから」
「ドキドキしましたよ。必死にお願いしてるのにバスタオル剥ごうとするんだもん」
「ごめんごめん」冬広もベッドに腰かけた。
「バスタオル取って、そのあと、あたしをどうするつもりだったの?」
「ちょっと、優里チャン。勘弁してよ」
「怒ってないよ。ちょっぴり興味ある」
冬広の理性が揺らいだ。
「じゃあ、実演しようか。なんてね」
優里も舞い上がっていた。
「絶対一線を超えないと約束してくれるなら、多少のことはいいですよ」
冬広は人生二度目の逡巡に、笑みが消えた。
(これって、浮気だよな?)
冬広は強引に大義名分を探した。優里は断崖絶壁に立たされて、今普通の精神状態ではないのだ。優しく抱きしめてあげないと壊れてしまう。
無理やり自分を納得させると、冬広は立ち上がった。ラブホテルは彼にとって庭なのだ。
「優里チャン。じゃあ、手貸して」
「え?」
冬広は優しく優里の細い腕を掴むと、手枷にはめた。
「嘘…」
笑顔だ。嫌がっていない。冬広は両手首とも拘束してしまった。
次は足だ。冬広はエキサイトしていた。優里も興奮していた。
また大股開きの屈辱的ポーズなのに、優里は抵抗しなかった。
バスタオル一枚で大の字に固定されて、優里は緊張した。両足は、これ以上開けないほどの大開脚。
「冬広さん。バスタオルは取らないでね。恥ずかしいから」
「もちろん取るよ」
「ダメ」
優里は身じろぎした。危険なしぐさだ。

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