《MUMEI》
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 事実上、具象世界を破ったと言える“天の水門(デルージェ)”の海底でただ一人、カイルは己の怨恨の黒き炎を集わせ厚く巨大な防波堤を築き出来る限りの抵抗を試みていた。しかし先も言った通り浄化の力にカイルの怨恨は消し去られ続ける、世界のすべてが怨恨で構成されているとはいえ湧き上がる怨恨も有限のもの。いずれは底を尽き、カイルも海の藻屑と化すだろう。
 水中に面した漆黒の炎は徐々に削られ、それを補うように内側から湧き上がり続ける漆黒の炎が前面に出ていく。
 「くそ、まさかエリザがこんなものを隠していたとは」
 身の丈ほどもある長剣を紋様の施された鞘に収め、カイルは策を練ろうとする。だが、策を練ろうにも自分に残されたカードは無いに等しく、この状況を打破できるようなカードは持ち合わせていない。
 そうして策を講じている間も、怨恨の炎は浄化されてゆき貯蔵も残り僅かとなっていく。
 いくら冷静になってみても今回ばかりは打つ手がなく八方ふさがり、炎の尽き目が命の尽き目だった。
 「いまはただ耐えることしかできないか」
 この絶望的な状況にあってもカイルは諦める素振りも見せず、真っ暗闇の中で目を瞑り、この時間を有効に使おうと疲れ切った体を休めようとしている。

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