《MUMEI》
『いらねー』
.

義仲は増井から目を逸らすと、わたしの顔を見た。

やはり、冷たい目だった。

彼は、わたしから目を逸らさずにつづける。


「もう彼女じゃねーし」


わたしは目を見開いた。言葉がなにも出てこない。

呆然としていると、義仲はフイと顔を背けて、帰るぞ、と増井に声をかけて、バイクの方へ歩み寄った。

増井は戸惑いながら、わたしと義仲を交互に見遣っていたが、やがて、ハイ…と返事をして、小走りで義仲を追い越し、先にバイクに乗る。

増井は出発するため、バイクのエンジンを数回、ふかした。


けたたましいエンジンの音が響く中、


ひどく冷静な様子で、義仲はそのバイクのタンデムシートに手をかける。


それを見ていた千影が、たまらなくなったように、ちょっと義仲!と爆音に負けないくらいの大声で呼びかけた。


「いい加減にしなさいよ!『彼女じゃない』って、アンタねぇ!!」


心優しい彼女は、わたしの代弁をしてくれたが、義仲はゆっくり振り返ると、冷めた表情で、

シニカルに唇を歪ませた。


「俺に『ついてこれない』ヤツなんか、いらねー」


わたしは瞬いた。義仲の顔から、目が離せなかった。


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