《MUMEI》 心当たり「我が甥ながら、小癪な真似をしてくれたよ。まあ釘はさしといたし、また悪さをするようならば、今度は容赦しない」 「おやおや。それで、今日は何の御用で?」 マカの目の前に、赤い液体の入ったティーカップが置かれた。 「何の茶だ?」 「当店オリジナルのブレンドティーですよ。頭がスッキリします」 そう言って店主は眉間を指さした。 マカは自分の眉間に触れ、険しい顔になっていることに気付いた。 そしてむつくれたまま、ブレンドティーを飲んだ。香は良いが、少しすっぱかった。 「…ちょっとおかしな噂話を聞いてな」 「ほう」 店主もティーカップを持ちながら、マカの向かいのイスに腰を下ろした。 「何でも若くして亡くなったものが、生前の姿で現世に現れるという。…心当たりは?」 「亡くなった方が、ですか」 店主はブレンドティーを一口飲み、首を傾げた。 「…今のところ、そんな商品は出ていませんよ。ご要望も聞いていませんし」 「では、何が発端だ?」 「残念ながら私には心当たりは…」 困り顔で首を横に振る店主を見て、マカは忌々しそうに舌打ちをした。 「ったく…。最近、どうなっているんだ? この前のケータイのことといい、今回の死人といい…。身内絡みはカンベンだぞ」 「それは同感。こちらも商売がしづらくなってしまいます」 「…しかしこんなことを仕出かすのは、同属以外にはありえないしな」 「そうですねぇ。しかし死人がよみがえるとは…」 「穏やかじゃないにも程がある。だがウチの同属達は条件付きならば人ならざる力を使うことを許されているからな」 ハッピーキャンドルならば、説明書付き。 ケータイ電話ならば、質疑応答のメールのやり取りの後、審査。 「ウチの長も何を考えているんだか…」 「あまり取り締まりを厳しくしすぎると、反動が出ますからね。それを防ぐ為なんでしょうけどね」 「生死に関わることは重要だ。本人の意思の確認が必要となる。しかし…今回はそうとは思えん」 「う〜ん…」 しばし二人は険しい顔で黙った。 「…もしかしたら、なんですけど」 ふと店主が口を開いた。 「私のヒイキにしている商品開発部か製作部の人達が絡んでいるかもしれませんね」 前へ |次へ |
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