《MUMEI》
絶望と幸福
「…てことを…。何てことをぉお!」

マカは激昂した。

誰だって死んで欲しくない、死にたくない人間はいる。

特に若い者であれば、尚更だ。

カノンが人形を与えるターゲットを、自分と近い歳の者を選んだのにも理由がある。

マノンと言う、もう一人のマカをよみがえらせる為に。

近い歳の者の血と命、そして呪が必要だったのだ。

でもこんなのは、人の悲しみと弱みに付け込んだ悪しき行動以外の何物でもない。

人の死は、とても悲しく苦しく切ない。

だからこそ、生は楽しく明るく嬉しいものなのだ。

生に闇や影があろうとも、生きていればどうにだって出来るし、何にでもなれる。

その人の絶望と幸福を利用して、得た結果が、目の前の闇のモノ。

すでに人成らざるモノなんていう次元じゃない。

あっては成らない、闇の眷属だ。

「マノンっ! 頼むから闇へ返れ! この世に存在するだけで災いとなるお前を、このまま野放しには出来ないんだ!」

「死ぬことを頼むなんて、ヘンな姉さんだね。イヤに決まっているじゃないか」

マノンは避けるだけで、攻撃を仕掛けてはこない。

だが体力の限界を、マカの方が感じていた。

すでに息は上がりつつあるのに、マノンは息一つ切らせていない。

…そういう肉体的な機能が無いのかもしれない。

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