《MUMEI》

駅に向かって歩いていると、ミナの姿が見えた。

ちょうど駅から出てくるところだった。

「あっ、マカぁ」

「ミナ、今そっちに行くから待ってて!」

「うん!」

笑顔のミナに手を振り、マカは信号を待った。

休日にもなると、駅前は若い人でごった返す。

…失踪事件があろうと、ここにいる人間の何人が覚えているのか。

マカは少しむなしく思え、ため息をついた。

その間に信号は青へと変わった。

慌てて人ごみの中を歩き出す。

向かいから来る人をうまく避けながら、ミナの元へと急ぐ。

―だから気付かなかった。

向かいから歩いてくる人物。

黒尽くめの服を着て、フードを深く被っている。

口元には笑みが浮かんでいた。

マカが向かってくるのを、心待ちにしているように。

そして二人がすれ違いざま。

   

大切なモノは、ちゃんと守らなきゃ…
 いつか失ってしまうよ?



マカの眼が大きく見開かれた。

しかし足はそのまま信号を渡りきってしまった。

向こう側へとたどり着いたマカは振り返る。

しかしそこに、黒尽くめの人物はいなかった。

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