《MUMEI》
・・・・
 それはあまりにも突然の出来事だった、空中を浮遊するエリザの遥か頭上に広がる魔法陣群に突如亀裂が走り、粉々に砕け散ったのだ。まるで蛍が瞬くように砕け散った魔法陣の残骸は煌めきながら消えていく。
 粉雪にも似た魔法陣の残骸が舞うなか、エリザの心は声にならぬ叫びを上げた。
 魔法陣が無くなると暗雲は薄れてゆき赤い空が顔を見せ始めた。轟々と渦巻いていた竜巻も大津波もおさまっていく。
 波音を激しく立て荒れ果てていた海原も穏やかなものとなり、風もすっかり止んでしまった。魔法によって生み出されたこの大海も、浄化の力を失いもはや何の役にも立たぬただの大きな水溜まりでしかなく、あとは消えてゆくのみの運命。
 「・・・・まだ、わたくしは」
 浮遊し続けていたエリザは次第に下降していき消えゆく海原に降り立った。大地はエリザの魔法のおかげで泥るんでおり、踏みしめた靴がぐっと沈む。ただそれだけのことで、エリザは足を取られ体勢を崩した。
 欠陥だらけの未完成魔法を唱えた代償がこれだ。敵を倒すこともできず中途半端なまま瓦解し、魔力のほとんどを持っていくだけもっていってしまった。
 そして漆黒の城は健在で、エリザの前にそびえ立っている。
 あとすこし魔法が保っていればあの城を崩せたかもしれない、そうすればカイルを倒せていた。そう思うと無念で仕方がない。
 ふらつく足を精一杯踏ん張り、己に檄を飛ばしエリザは気丈に振る舞おうと勇む。
 不条理な世界に報復をしなくては死ぬに死に切れない、なにより兄の前で情けない姿を晒したくはなかった。
 ただその一心でエリザは倒れそうな身体を引っ張っている。

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