《MUMEI》

何分経っても十円玉は少しも動かなかった。

やがて、周囲の空気も変わってきた。

「…何かムリそうだから、私、抜けるね」

そう言って私は十円玉から手を離した。

クラスメイト達がため息をつく。

「な〜んだ」

「マカが相手なら、大物、来ると思っていたのに」

「ねぇ。実際変なこと、起きたこともあるのに」

…ああ、と納得する。

最近、教室の中でラップ音がするわ、よく誰かが転んだり、物が勝手に落ちたり、おかしなことが続くとは思っていた。

…どうやら向かいに座る女の子は、下級なモノを呼び寄せる力があるらしい。

同属ではないにしろ、そういう力を持ったコはいないこともない。

私は立ち上がり、自分の席に戻った。

女の子はクラスメイト達に囲まれながら、青白い顔で苦笑している。

どうも呼び寄せることにわずかな自信を持っていたみたいだが、何分、相手が悪い。

私では、な。

―その後、教室ではおかしなことは一切起こらなかった。

やがてクラスメイト達も交霊術に飽きて、やらなくなった。

女の子もおとなしく勉強に専念し始めた。

私は心の中で、女の子に少々詫びた。

あの時、私は言葉では召喚の言葉を発していたものの、力では逆のことをしていた。

つまり、呼び寄せないように力を使っていたのだ。

あの女の子は呼び寄せる力はあれど、返せる力などなかった。

だからこの教室にたまり、悪さを働いていた。

だが私が『拒絶』の力を発揮したせいで、一掃した。

紙に描かれた門から、下級のモノ達を逆に返したのだ。

あのままでは下級のモノの溜まり場になっていただろう。

下級のモノの厄介なところは、集まり過ぎると共食いをはじめ、中級―上級へと進化してしまうところ。

やがては人間に悪さどころじゃないことをするだろう。

大抵の人間がそうだが、呼んでも返せない。

呼ぶよりも、返す力の方が強くなければならない。

そうじゃなければ…。

私はあの女の子を見た。

彼女のように、呼び寄せたモノに取り付かれてしまうのだ。

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