《MUMEI》 「なら安心ですね。寄りたい所とかあったら、遠慮なく言ってくださいね。下手に夜道を歩かれるより、迷惑にならないんですから」 「分かっているよ。さて、そろそろ私達は行こうかね」 中年の駅員が、若い駅員に声をかけた。 「それじゃ、また明日」 「ああ、頑張っておくれ」 ―そして終電が行き、駅が閉まった。 わたしは一人、薄暗くなった駅の中を歩く。 そして一通り見回りを終え、誰もいないことを確かめると、駅員室に戻った。 駅員室の奥に、給湯室がある。 水場の下の棚を開け、水道のパイプが目に映る。 暗い棚の中に目を凝らし、一つのスイッチを見つける。 そこに触れると、給湯室の壁が動いた。 ぽっかりと、空間が出来る。 わたしはそこに入る。 下に続く階段を降りる。 そう―この地下鉄よりもなおも深い地下に。 わたしが階段を降り始めると、後ろの壁が静かに閉じて、代わりに階段に光が照らし出される。 明るい階段を降りる。 十分ほど降りた所で、一つの扉の前に出た。 ドアノブをゆっくりと回す。 その先には、地下鉄の光景が広がる。 前へ |次へ |
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