《MUMEI》 わたしは躊躇無くそこに降り立った。 上の地下鉄となんら変わり無い地下鉄だが、空気がイヤに澄んでいる。 濁りが無いものが全て良いワケではない。 濁りが無いからこそ、染まりやすいというのがある。 そう―闇に。 わたしは明るい駅の中を歩き、駅員室に向かった。 部屋には複数の話し声。 ドアをノックすると、明るい男性の声が返ってきた。 「お〜。ルカ、今日もお疲れさん」 まだ二十代の若い男性駅員の彼は、わたしの親戚である。 「やっほ、シヅキ。今夜もよろしくね」 親しげに話しながら、駅員室に入った。 「おお、ルカくん。今夜もよろしくね」 「はい、おじ様」 シヅキの実父も、ここの駅員の一人だった。 「毎日ご苦労さま。大学の方は大丈夫かい?」 柔らかい物腰で話しかけるのは、今年40になるというのに二十代にしか見えない、これまたわたしの親戚だ。 「ええ、ラゴウ。明日は休講だし、気にしないで。そんな長期になる仕事じゃないしね」 「まっ、今の内だけだかんな」 そう言ってシヅキがコーヒーを淹れてくれた。 二杯目だが、飲み物が好きなわたしは笑顔で受け取る。 「さんきゅ。それより相変わらずみたいだね。毎年こうなの?」 「そうだなぁ。いつもはマカちゃんが来てくれるんだけど、学校の勉強合宿と重なっちゃったから、今年はルカちゃんにお願いしたんだけどね。今年はちょっと多いかな」 おじが考えながら言った。 前へ |次へ |
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