《MUMEI》

わたしはその『迷子』を、正しい所へ案内するのが役目だ。

今日も地下にしては明るい駅の中を歩く。

一般の地下鉄と違って、売店やどこぞの宣伝ポスターなんかは無い。

ただただ壁が続くだけ。

入り口は決まっていない。

地下鉄に乗れるモノの前に、入り口は現れるから。

無音の中を歩いていると、現実味が無い。

…いや、これは皮肉だろう。

わたし達の血族こそ、現実味の無い存在だ。

でもまだわたしはマシな方。

従姉妹のマカは、それこそ感情が壊れそうなほど重い血族の運命を背負わされているのだから―。

音楽も音も聞こえない所にいるせいか、思考が暗くなりがちになってしまう。

頭を振り、気分を変える。

ふと、目の前にぼんやり人の姿が見えた。

もしやと思い、近付いてみる。

「こんばんわ」

声をかけると、和服姿の老女が振り返った。

「こんばんわ。今日は良い満月ですね」

霧で月は見えなかったが、そうか。今日は満月なのか。

「そうですね。ところで行き先はお分かりですか? 分からなくなったのであれば、ご案内いたしますが」

「いえいえ、大丈夫ですよ。今は待ち時間なだけなんです」

明るく言って、老女は懐から一枚の切符を見せた。

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