《MUMEI》 夜・迷子ふと、感覚的に何かが引っかかった。 …この感じは、迷子がいる。 しかもかなり近くに。 わたしは迷子の元へ、足を向けた。 歩いて行くと、目の前に周囲をキョロキョロしている男性を見つけた。 「こんばんわ」 声をかけると、男性はぎょっとして振り返った。 「どっどこの地下鉄だっ! ここは!」 必要以上に声を張り上げ、男性は言った。 黒い服装に身を包み、しかし男性の体からは血の匂いが漂ってくる。 普通の人間では分からないほど、微かだが…。 「階段を降りたらこんな所にっ…!」 「まあ地下鉄ですから。ここは来られる人が限られているんですけどねぇ」 極稀に、彼のような人が来る。 「出口を探していらっしゃるんですよね? ご案内しますので…」 「いっいや、このまま電車に乗る」 …やっぱり。 まあ何となくは予想できる答えだ。 「…ご乗車ですか。では少々お待ちください」 わたしは腰に付けていた機械を取った。 そして操作すると、機械から小さな切符が出てくる。 「こちらをどうぞ。乗車券です」 前へ |次へ |
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