《MUMEI》 その存在は、奥の方にいた。 ずっと壁を見つめているのは、古い民族衣装に身を包んだ青年だ。 「何故…。何故こんな所に…」 「もしもし?」 声をかけると、ゆっくりと振り返る。 「ここがどこだか、お分かり…ですか?」 「ああ…。何となくは…」 「では、大人しく行ってくれますか?」 青年の目が僅かにつり上がった。 「ここへ来てしまったということは、そういうことなんですよ」 わたしは出来るだけ穏やかに声をかける。 「…だ」 …ああ、やっぱり。 「イヤだイヤだっ! こんな所へ来るはずではなかった! 私はずっとあの場所にっ…!」 まあこういう迷子はたま〜に来る。 一つの場所に留まっていた昔の人。 けれど何らかの力が働いて、追い出されたのだろう。 追い出されれば、ここへ来るのは必須。 「そうはおっしゃられてもね。きっと戻れませんよ? それにここからも出られません。あなたの行く所は、一つですから」 「…っ! 言うなっ! 小娘!」 「小娘…て言われるほど、わたし、可愛くないんですよ」 そりゃ彼からすれば、小娘に見えるだろう。 けど…この身に流れる血は彼より古く、そして重い。 前へ |次へ |
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