《MUMEI》 「申し訳ありませんが、あなたはすでに切符を持っていらしているはず。乗ってもらいますよ」 あたしは制服のポケットから笛を取り出した。 銀色の細い笛。 しかし彼は色を変えてきた。 どんどん濁った黒い色に染まり、形も歪んできた。 …こりゃ、マズイな。 よどみとなったモノは伸びたり縮んだりを繰り返していた。 しかし突如動きを止め、狙いをあたしに定めた。 あたしは飛び掛るよどみを避けながら、笛を吹いた。 ピィーーー! するとよどみの底が、ぽっかり穴が空いた。 そこから何本もの黒く長い手が伸び、よどみを捕まえる。 『ぐおおおっ!』 そして恐るべき力で、よどみを穴の中へ引きずり込んでいく。 「残念ながら、ここまで来て乗車拒否はできないんですよ。―良き旅を」 そしてよどみは穴の中へ消えて、穴も消えた。 「ふぅ…」 今日の迷子は二人。 でもちゃんと送っているんだから、仕事はちゃんとこなせている。 …マカは毎年、こんなのを相手にしているのか。 破格のお給料とは言え、ちょっとなぁ…。 前へ |次へ |
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