《MUMEI》
ダリア
「兄さま
兄さま
摘んでまいりました」

「ああ
ありがとう
愛しい妹」





ぱたん。

扉を閉める渇いた音で、目を覚ます。木陰から身を起こすと、少し離れた温室から生徒が一人、出てきたところだった。
黒いおかっぱに、我が校伝統の古臭いセーラー服。それを着くずすこともなく、きっちりと結ばれたリボン。
綺麗な顔立ちなのに、彼女を彩どるのは、胸元に抱いた赤いダリアの花だけだ。少女は足音一つたてず、ふわふわと校舎へ歩きだす。

軽く頭を振って、覚醒させる。今、目にしたものを思い浮かべると、唇が歪むのを抑えられない。

ああ、やはり、思ったとおり。

昼休み全部を使って、見張っていた甲斐があった。途中寝入ったとしても、肝心な時に、瞼は開いたのだ。ゆっくりと。
本当にゆっくりと、温室に近づく。
まるで、ずっと捜し求めていた宝箱を開けるような、高揚感。
いや、これは例えにはならない。まさに、そのとおりなのだから。

きい。

小さく鳴いて、扉が開く。とたんに、生ぬるい土と花の香りが押し寄る。



そうして。

その狭く暖かい宝箱の中心に。

小さな宝は、やはり真っ赤なダリアを抱いて、たたずんでいた。



見付けた時に発する歓喜の一声は、とうの昔に決めている。



「なあ、お前、人間じゃないんだろう?」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫