《MUMEI》
・・・・
 「わたくしの負けのようですね。こうなったいま、悔しいですがわたくしに打つ手は残されていません」
 自嘲を含んだ微笑みを浮かべるエリザに、カイルは手を差し出した。
 最愛の妹をこの手に掛けずに済み安堵感が満ち溢れるカイルに、先ほどまでの殺意はない。
 妹は兄の手をとり、兄妹の身体は重なり合う。
 十年ぶりの触れ合い、伝わるぬくもり。
 この刹那の時間、確かに二人は通じ合っていた。
 わずかな力を加えただけで壊れてしまいそうな細い針が軋みながら傾き、そこに新たな黒い光が灯る。
 「――エリザ」
 花を愛でるように、その名を呟く。
 幸せそうなカイルの横顔を覗きエリザは応えるように甘く囁いた。

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