《MUMEI》 飛行冬広と優里は、裸のままベッドで寝ていた。 罪悪感を感じながらも、夢にまで見た腕枕。 二人は胸まで掛布団を掛け、天井を見ながら話した。 「冬広さん」 「ん?」 優里の白い肩がたまらなくセクシー。冬広の心は熱かった。 「あたし、実は、Mなんです」 「ふっ」 優里は、笑う冬広を見た。 「何で笑うんですか?」 「いや失礼。でもMなのはわかるよ」 優里は、笑顔のまま口を尖らせた。 「ハラハラドキドキさせてくれる人を、探してたんです」 「それであんな危険な目に遭ったの?」 「本当に怖い思いをするのはヤだけど、優しく意地悪されるのは興奮します」 冬広は、意外を通り越えたセリフに、感動するしかなかった。 優里は囁くように語った。 「まさか、こんな近くに、真隣に、最高のパートナーがいたなんて。遠回りしちゃった」 好きな人に甘えられる。あり得ない状況だ。 浪漫飛行。 このまま彼女をさらって行けたら。冬広がそんな非現実的なことを考えていると、優里がポツリと呟いた。 「冬広さんが、独身だったらなあ」 冬広は苦笑した。 「優里チャン」 「はい」 「女性にそこまで言わせて…。じゃあ、僕も白状するよ」 「え?」 優里は冬広を見つめた。冬広は天井を見て話した。 「君のこと、前から興味があった」 「またあ」優里が笑う。 「君は綺麗で、女神のように美しい。表情も豊かで、本当に魅力的な女の子だと思ったよ」 「何言ってるんですか」優里は照れた。 「本当だ。だから、いつも明るく話しかけてくれて、凄く嬉しかった」 「嘘…」優里は真顔で聞いた。 「きょうも会話できた。きょうは会えなかったって。これはもう、恋だなと、思った」 優里は驚きの表情で冬広の横顔を直視した。 「心の浮気だ。好きになっちゃいけない人を、好きになってしまった。だから、マンションで裸の君を見たときは、びっくりなんてもんじゃない」 優里は思い出して笑みを浮かべた。 「知ってる人に裸を見られるのは恥ずかしいですよ」 短い沈黙。 「あたしも、冬広さんに好感を持ってましたよ」 「嘘でも嬉しいよ」 「嘘じゃないですよ」優里は天井を見ながら、さりげなく言った。「冬広さん。奥さんと別れてください」 「……」 まさか一日に三度も逡巡を味わうとは。硬直した笑顔のまま、冬広は無言で天井を見ていた。 「ぷっ」 「え?」 笑う優里を見つめる冬広。彼女は、魅惑的な笑顔を向けた。 「あたしが本気でそんなこと言うと思います?」 「…え?」 「迷ってどうするんですか?」 冬広は冗談だと気づき、襲いかかった。 「もう許さない」 「わかった、ごめんなさい、ごめんなさい!」 「悪い子にはお仕置きが必要だ」とくすぐりの刑! 「きゃははははは、やめて、やははははは、許して、あはは、やめははははははやひははは…」 優里は笑い顔のまま息していない感じなので、冬広は手を止めた。 「はあ、はあ、はあ…」 目を閉じて口を開け、息を弾ませる優里。すべてに色っぽい彼女のしぐさに、冬広の心も舞い上がった。 「優里」 「冬広さん」 これからどうなるかなど、全くわからなかった。 二人はマンションの近くまで来ると、立ち止まった。 「じゃあ優里チャン。こっからは時間差で、別々に帰ろう」 「はい」 優里も酔いから醒めれば、激しい罪悪感に胸を痛めていた。 冬広は満足の笑顔で闊歩していく。優里はその背中を見つめながら、本当に恋をしてしまったと、確信できた。 「…冬広さん」 前へ |次へ |
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