《MUMEI》
お父さんのこと
.

「元締め?」


それってつまり……。


繰り返したわたしに、ルカさんは深々と頷く。


「鷲造さ…義仲くんのお父様は、この街のほとんどのお店を牛耳ってるの。このあたりで働く女の子たちは、義仲くんを見かけたら、飛び切りイイ顔するわ。見初められたら、そりゃぁラッキーですものね」


彼女は優雅な仕種でティーカップを持ち、紅茶を口に含んだ。


「義仲くん自身も、それは心得ているんでしょう。『アメとムチ』…っていうか、彼女たちがこの街でいつまでも働いてくれるように、ときには思わせぶりな態度をとるの…彼のお父様がしているようにね」


ルカさんの話を聞きながら、わたしはアイスココアを眺めた。

中に浮いていた氷が溶けて、カラン…と涼しげな音を立てる。

グラスの表面を滑らかに滑り落ちていく水滴をじっと見つめて、考えた。


状況は、わかった。

でも、納得出来ないことがある。



義仲は、父親に対して良い感情は抱いていない。どちらかといえば嫌悪している。



−−−…彼のお父様がしているようにね。



それなのに、今のルカさんの口ぶりでは、義仲は、父親の真似ごとをして、アゲ嬢たちにヘラヘラした態度をあえてとっているように聞こえた。


なぜ、あれほど嫌っている父親の真似をするのか。


父親が嫌なら、彼に反発して、アゲ嬢たちに素っ気ない態度をとってもおかしくはないのに。


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