《MUMEI》 . 以前、義仲は、こう言っていた。 −−−…それでも、たったひとりの、親なんだよなぁ…。 あの、台詞の、意味は。 わたしは顔をあげ、ルカさんを見た。彼女もわたしの視線に気づき、小首を傾げる。 わたしは一度瞬き、そして、尋ねた。 「義仲のお父さんて、どんなひとなんですか?」 唐突な質問に、ルカさんは少し驚いたようだった。どんなひとって?と、柔らかな抑揚で繰り返す。 わたしは目を逸らさずに続けた。 「義仲はお父さんのことを、他人を利用しても心を痛めない、冷たいひとだって言っていました」 日本でも一、二を争う大やくざ『櫻鷲会』会長の肩書きを背負い、その傘下にはたくさんの構成員を抱え、さらにこの街を牛耳るほどの権力を固持しているひと。 ただの、『いいひと』では、到底おさまらない器だ。 それに、極悪人でも、務まらないだろう。たくさんの部下からの信頼を集めるには、ある程度、誠実でなければならない。 . 前へ |次へ |
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