《MUMEI》 . わたしの言葉を聞いたルカさんは、少し神妙な顔つきをしたあと、ふんわり笑った。 「義仲くんのお父様は、あなたが想像するほど、冷たくて、こわいひとじゃないわ。とても紳士的だしね」 そう言って、紅茶を一口飲む。 わたしは彼女の優雅な仕種を眺めながら、でも、と呟いた。 「義仲は、お父さんのことを嫌っています。それは、なにか理由があるからですよね?」 本題に切り込むと、ルカさんは一変して厳しい目をした。カップをソーサーに静かに置くと、低い声で答えた。 「それは、わたしの口からは答えられないわ。義仲くんに直接聞くのね」 はっきりと拒絶され、わたしは黙り込む。 ルカさんは自分の腕時計を眺めて、もうこんな時間、とおどけた。 「そろそろ、帰りましょうか。すっかり遅くなっちゃったわ」 伝票を掴んで立ち上がったルカさんに、わたしは、もうひとつだけ、と口を開いた。 ルカさんはわたしを見て、なぁに?と首を傾げる。 . 前へ |次へ |
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