《MUMEI》

.

考えるのに夢中で、周りを一切見ていなかった。



−−−すっかり、油断していたのだ。



背後に、不審な気配を感じ取るまで、

いつの間にか、人通りの少ない路地に迷い込んでいたことに、全く気づかなかった。



…………なに?

後ろに、誰か、いる?



嫌な予感がして、勢いよく振り返ったわたしの口に、ハンカチが宛がわれる。

嗅いだことのないような、薬品の臭いに、わたしは目眩がした。


驚いて逃げ出そうとしたわたしの身体を、逞しい男たちの腕が絡み、あっさり捕らえられてしまう。


抵抗しようとしたが、なぜか意識が朦朧とし、身体から力が抜けていく………。


記憶が途切れる、その直前まで覚えていたのは、


纏わり付く、薬品の臭いと、


わたしの周りを取り囲む、数人の黒いスーツを着た謎の男たちの姿だった−−−。





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