《MUMEI》
思い出はこれから
「…最悪だな」

「だろ?そんな生活しかしてい
 ない僕には、今まで楽しかっ
 た思い出すらないんだ。ホン
 ト、最悪としか言いようがな
 いよ」

「そっ…か。…でもさ、無いな
 ら、これから作ればいいんじ
 ゃねぇの?」

「え?」

「だから、これから思い出作っ
 て、幸せになりゃあいーだろ
 って言ってんの」

「…できないよ。だって、僕は
 ココで一人だもん」






そうだよ。僕は、この檻から出ることなんてできないんだ。

幸せなんて、遠すぎる…。







「お前なぁ、俺がいるだろ?」

「それは、今日だけじゃん」

「バーカ。毎日来てやるよ」

「……は?」







悠一の言葉に、僕の口からは間抜けな声しか出てこなかった。






「…お前さ、さっきから"え?"
 とか"は?"とか言ってるけど
 人の話ちゃんと聞いてる?」

「き、聞いてるよ!でも、悠一
 が信じられないことばっかり
 言うから、頭が追い付かない
 んだよ!!」

「…理解力がないのか?」

「ちっがーう!!もういいよ、
 悠一なんかしらないっ!!」







梨央は、拗ねてそっぽを向いてしまった。



…ちょっとからかい過ぎたか






「梨央〜、拗ねんなよ」

「拗ねてないよ」

『思いっきり拗ねてんじゃん』

「機嫌直せって」






悠一の説得に、梨央は黙り込んで無視をしている。



ったく、餓鬼かよ…






「機嫌直したら、明日も同じ時
 間に会いに来てやるよ」

「……ホントか?」

「あぁ。ってか、やっぱり機嫌
 を損ねてたんだな」

「う、うっさいな!」

「そういうこと言ってると、来
 てやんねぇぞ」

「えっ!?ヤだ!!」

「…こういう時だけ素直だな」

「だって…だって、一人なんて
 嫌だもん!!今の僕には、悠一
 しか普通に話せる人がいない
 んだよ!だから頼む!!明日も
 会いに来て!」






梨央は、今にも泣きそうな顔で悠一に懇願した。






「そんなに頼まなくても、必ず
 会いに来てやるから、そんな
 泣きそうな顔すんなよ」

「な、泣きそうな顔なんかして
 ないもん!」

「…ホント、素直じゃねぇな」

「うっさい。…とにかく、明日
 来るの待ってるからな!」

「りょーかい。…じゃ、今日は
 もう帰るな」

「ん、またな」

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