《MUMEI》
トラブルメイカー
 「おっはよー!」

 朝っぱらから、とある高校の一教室から、バカみたいに明るい挨拶が木霊した。
 今、一人の少年が勢いよく教室の扉を開け、開口一番、挨拶をしたのだ。
 それを聞いたクラスメートはまたか、といいたげな苦笑いを浮かべる。
 そして授業をしていた教師は、いつもの通りのセリフを口にした。

 「ばかもん、そんなに堂々と遅刻するヤツがあるか。1分だけ待ってやるから、早く準備をしろ」
 「すいませーん、今やりまーす!」
 注意を受けても悪びれずに、そそくさと自分の席につく少年。
 慣れた手つきで、素早く準備を終えた少年の姿を見た、隣りの席の少女がふぅ、と溜息をついた。

 「……飛太(ひいた)、わたしより先に家を出たんじゃなかったの? 飛太の家から学校まで、10分もかかんないじゃない」
 「うーん、天気も気分も良かったし、のんびり歩いてたら、遅刻しちゃった」

 少女の指摘すらサラリと流す、飛太という名の少年。
 飛太の答えを聞いて、少女はますます呆れ顔になった。

「あんたね……子供じゃないんだから」
 「え? 違ったっけ?」

 う、と少女は答えに詰まった。
 しかしその後、即座に言い返す。

 「そうかもしれないけど、もう少しちゃんとしなさいってことよ。もう何年、同じこと言わせるのよ」
 「お説教はあとあと、ほら、先生もにらんでるし」
 「……ったく、もう」

 少女はおおげさに溜息を吐いて、それ以上は何も言わなかった。
 それから授業が再開されたが、飛太は終始、落ち着かない様子で教師の話を聞いていた。
 器用にも授業を聞き、休みなくノートを取りながら、飛太の様子を観察していた少女は、まるで子供みたいだ、と正直な感想を心の中で呟く。
 そうこうしているうちに一時限目が終了し、休み時間に入った。

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