《MUMEI》
事件
そのとき、

僕には今目の前で起きている悲惨な光景よりも大事なものがあった。

時間。

一秒でも早く帰らないと父さんと母さんに怒られてしまう。

夕べは門限より20分遅く帰ってきてしまった。

だから今日は早く帰らなきゃ。

なのに

何やってんだよ、こいつら。

バスが停車した。

窓硝子の向こう側で

2、3人の若者が激しい喧嘩をしていた。

一人が徐に

ナイフを取り出した。

やめろ。

それは誰の声だったのか。

硝子はテレビのブラウン管のように

悲惨なドラマを映し出していた。

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