《MUMEI》
大バカ者
それからというもの、悠一は毎日僕に会いに来てくれた。



一時間くらい話すだけだが、梨央にとってはなくてはならない時間となっている。

毎日がこんなにも楽しいと感じたのは、おそらく初めてのことだ。





ところが、今日は悠一がなかなか来ない。もう約束の時間を10分も過ぎている。ベランダから辺りを見渡しても、悠一の姿は見えない。



誰かに見付かったんだろうか?
そして、もしその発見した人がお兄様だったら…



梨央は、不安になってきた。悠一が来ることが当たり前になりすぎ、見付かったらどうしようなどという危機感がなくなっていたのだ。


悠一がいなくなれば、梨央はまた一人きりの生活に逆戻りである。






「…悠一」

「…ん?どうした?」

「!?」






不安から無意識のうちに発した言葉に返事が返ってきた。

驚いて下を見れば、いつもの場所に悠一が立っていた。

どうやら、考えるのに夢中で悠一が来ていたことに気付かなかったらしい。





「わりぃ、遅くなっちまって。
 それより、どうした?名前、
 呼んだだろ?」

「……カ」

「え?」

「…悠一のバーカ!!」

「はぁ!?」

「この大バカ者が!!あー、もう
 最悪!!悠一のバーカバーカ」

「お前なぁ、突然何なんだよ?
 人のこと呼んどいて、"バカ"
 とか失礼すぎだろ!!意味分か
 んねぇし!」

「うっせぇ!!全部お前が悪いん
 だよ!ふざけんな!」

「ますます意味分かんねぇよ」





…俺、なんかしたっけ?

…あー、遅刻したからか?でもさ、そこまで言うことなくね?一応は謝ったしさ。


必至に考えを巡らせる悠一に対して、梨央は"もう、分かんなくていいよ!!"と言っている。



やっぱ怒ってる…。

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