《MUMEI》
やって来た『誰か』
.


春蘭さんの指が、ゆっくりと引き金を引く………



そのときだった。



わたしの背後にある扉の向こう側で、けたたましいバイクのエンジン音が鳴り響いた。
かなりの数のバイクが、外を旋回しているようで、わたしも春蘭さんもハッとして扉を見る。



……………なに?



様子を伺っていると、

扉の向こうから、聞き覚えのある声が、聞こえてきた。


「アレ!?なんでココ、鍵かかってんだ?」


エンジンの音に紛れて聞こえた、その声。



……………誰だっけ?



考え込んだが、よく思い出せない。

声の主は、扉の外側からガチャガチャと荒々しく鍵をいじったようだが、開く様子がない…。


「なんだこりゃ、いつもの鍵じゃねーぞ!?」


その『誰か』の声のあと、ザワザワと外が騒ぎ出す。

やたらにエンジンをふかすのをやめ、アイドリングする音だけが聞こえた。

『誰か』は鍵を固いものでガンガン叩いたが、壊れる気配がなかったので、舌打ちするのが聞こえた。


「オイ!アニキに連絡しろ!!」


『誰か』が命じたあと、ハイッ!!と数人が口々に返事をした。


「…勝手にヒトの縄張りで悪さしやがって」


さらに聞こえた、その声で、



…………あッ!!


この声、もしかして、



「増井ッ!!」



思い出したその名前を、わたしは大きな声で呼んだ。


.

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