《MUMEI》

ユウゴが受けとった携帯電話を開くと、たしかに暗証番号入力画面が表示されていた。
「適当に押しても、やっぱダメだろうな」
「ああ、そいつに聞くしかないだろう」
ユウゴの声に織田が答えた。
ユウゴは携帯電話をポケットに入れ、後部座席に目をやる。
「それで、どこでやる? 穏やかに聞いて答えてくれるとは思えないし、少しくらい騒いでも大丈夫なとこがいいんだけど」
「でも、あんまりここから離れすぎない方がいいんじゃね? せっかく本拠地の近くまで来れたんだし」
後部座席から声が聞こえ、ユウゴは思わず振り返った。
「おまえ、たまにはまともなこと言うんだな」
ユウゴは軽く皮肉を込めて言ったのだが、ケンイチは素直に褒め言葉と受けとったのだろう。
少し得意げに笑いながら「まあな」と頭を掻いている。
ユウゴはそんな彼に軽く苦笑しながら織田に顔を向けた。
「で? 近くにそんな場所あるか?」
「そんな場所、俺にわかるわけないだろう」
織田は無表情にそう言った。
ユウゴは一つため息をつくと「だよな」と考え込む。
しばらく考えてからユウゴはふと思い付いたことを口にしてみる。
「でかいパチンコ屋とかどうだ?」
「パチンコ屋?」
「そう。でかいとこならでかい駐車場ついてるだろ? その最上階のとこなら、人気もなさそうだし」
「えー。大丈夫かよ、それ」
ケンイチが何か言いたそうに口を出したが、ユウゴは「他にどこかあるか?」と振り返ると黙り込んでしまった。
「たしかに平日の昼間にパチンコ屋の駐車場が混んでいるとは思えないな」
織田が納得したように言ったのを聞いてユウゴは頷いた。
「もし見回りとか来ても誰か見張りに外立ってればいいし。そうしようぜ」
ユウゴの声に織田は頷いた。

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