《MUMEI》 でも別れたくない! 好きだし…。 …でも彼の場合、別れを切り出してもあっさり受け入れそうで怖い…。 本気であたしのこと、好きなのかなぁ? 「ねっねぇ」 「なに?」 「あっあたしのこと、好き?」 真っ赤な顔になって聞くと、彼はあたしを見た。 「好きだけど?」 …返ってきたのは、予想以上にはっきりした答え。 がくっと、力が抜けた。 いや、予想は出来てたけどね。 「そっそう。あたしも好きよ」 「うん」 そう言った彼の顔は少し赤くなっていた。 …こういう彼の顔を知っているからこそ、余計に好きになる。 でも毎日不安は募っていく。 好きだけど…好きなのにこんなに不安になるなんて…。 これじゃ片思いをしていた頃の方がマシだったような気が…。 どんどん気分も体も沈んでいく。 こういう人だって分かってて好きになったはずなのに…。 贅沢になってしまったのかな? 「ふぅ…」 「…お茶、淹れてくる」 「えっ、あっうん」 どんよりしているあたしを見かねたのか、彼が立ち上がった。 「紅茶で良い?」 「うん、紅茶好き」 彼の淹れてくれる紅茶は美味しいので好きだった。 少し顔を上げて、眼を閉じると―。 ―唇にあたたかな感触。 「…えっ?」 眼を開けると、真っ赤な彼の顔。 「…好きだから、お前のこと」 熱っぽい声と眼に、あたしの心は強く揺すぶられた。 そのまま彼は部屋を出て行ってしまう。 けれど、あたしはぼ〜としていた。 ああ、だから…あたしは彼から離れられないんだ。 あんな彼を知っているのが、あたしだけだから。 きっと一生離れられない。 前へ |
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