《MUMEI》

だが野衣には知らない顔で、警戒し広瀬の身を隠すかの様に強く抱きしめた
「……君は、野衣ちゃんだね」
「え?」
思わず自分の名前を呼ばれ驚く野衣
一体この男は何者なのか
訝しみ、疑う表情がつい顔に出てしまう
「……そんなに警戒しないでくれ。私は広瀬 修二。愁一の叔父だ」
「愁ちゃんの、叔父さん?」
小首をかしげて見せる野衣へ
相手・修二は穏やかな笑みで頷くと、愁一を抱え上げた
「……とにかく、修一を寝かせてやれる処へ」
路肩に止めて居たらしい車へ
乗る様野衣を促してやりながら、修二自身も乗り込んだ
「……バイク、どうするんですか?」
道端に放置のままの短車を眺めながら問うてみれば
後で回収させる、と返答
かわす言葉はそこで途切れ、車内に気まずい空気が満ちていく
「……これから、何所に?」
何とか場を保とうと問う事をすれば
どうやら丁度目的地に到着したのか、車が止まった
到着した其処はとあるマンション
修二は何を語る事もせず、広瀬をまた抱えその中へ
リビング奥の寝室に在るベッドへと広瀬を寝かせてやると
野衣へとリビングのソファを勧め、修二もまたその向かいに腰を降ろす
「……どうして、私達を拾ってくれたんですか?」
出された茶に手を付ける事はせず
訝しみながらそう問えば、修二の肩が微かに揺れた
「……君達の事は、宮口から聞いているよ。大変だったね」
穏やかな笑みが向けられ、野衣の頭へ修二の手が伸びる
触れる寸前
修二へと枕が投げつけられた
「……野衣に、触んな」
ベッドから上半身だけを起こした広瀬が、投げた格好のまま修二を睨みつけて
未だ呼吸の洗い広瀬の傍へ野衣が掛けて寄る
「……愁ちゃん、まだ熱がひどいよ。寝てないと――」
「何であんたが此処に居る?伯父貴」
身体を支えてくれる野衣へは礼を言いながら
久方振りに顔を合わせる修二には怪訝な顔
警戒心を顕わにする広瀬に、修二は苦笑を浮かべる
誰に対しても警戒心が強いのは仕方がない事だ、と
「……愁一。お前が他人の信用出来ない理由は分かる。だからこそ、私は君達の力になってやりたいんだ」
「今になって同情か?テメェ、何様のつもりだ?」
ふざけるな、吐き捨て広瀬はベッドを降りる
野衣の手を取ると、修二へ振りかえることもせず表戸を開け放つ
車寄せに自身の短車を見つけ、野衣へとヘルメットを投げて渡す
乗れ、と広瀬に促され後ろへと乗り込めば
漸く帰路へ
「何だか、懐かしい感じがする」
向日葵が咲く庭を眺めながら
しみじみとした野衣の声をすぐ横で聞く
広瀬から一方的な別離を突き付けられたのが一週間前
さして長くはない筈のソレが
酷く昔の事の様に思えた
「……向日葵、大分枯れちゃったね」
出て行く時には咲き乱れていた向日葵達
それらが随分とかれてしまっている事に、野衣の表情が曇る
残念そうな野衣へ、広瀬は微かに肩を揺らしながら
庭の片隅に置いてある植木鉢へと徐に手を伸ばして
其処にあった物は
「……それ、種?」
向日葵の種
首を傾げその種を眺める野衣へ、広瀬はその種を掬うと、野衣へと手渡していた
「……来年も、それ植えような」
野衣へと向けられる微笑み、そして穏やかな言葉に
野衣は嬉しさに涙を浮かべながら
満面の笑い顔を広瀬へと向けたのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫