《MUMEI》

彼は、一瞬目を見開いてから、うすく微笑んだ。

「その質問は、いささか唐突すぎやしませんか?」

そうだな、と俺も笑う。後ろ手に、かちりと鍵を掛けながら。
少年の黒い瞳が、細まった。さっき出ていった少女に、よく似た顔。けれど、その黒は彼女よりずっと暗く、鋭い。

「否定しないのか。」
「いったいどこから、そんな荒唐無稽な考えが沸いてくるのですか?生徒会長さん。」

今度は、俺が息を呑んだ。

「いくら私でも、存じ上げておりますよ。貴方は、目立ちますから。」
「・・・お前達兄妹も、十分に目立ってるがな。」
「ふふ、今は、そうでもないでしょう?」

確かに。
国籍の入り乱れた我が校でも、珍しい純粋なジャパニーズ。しかも、格段に美しいこの兄妹は、転校直後から話題の的だった。
それなのに、こいつらは異常に控えめだった。人と会話はするけれど、それは酷く薄っぺらなコミュニケーションだったという。いつも互いの傍にいて、離れなかった。
不満を感じたバカ達は、しだいに噂話を始める。

「「あのジャパニーズの兄妹は、禁断の恋をしている」」

ああ、バカらしい。
最近は、そちらの噂ばかりが流れて、確実に二人は孤立していた。

「人間じゃないから、人を遠ざけるのか?」
「・・・本当に。」

くつり。
彼の唇に、笑いが浮かぶ。
「失礼な方。」

瞳は、やっぱり暗い闇色のまま。

「何故、私が人ではないのでしょうか?それとも、それは遠回しな人種差別ですか?」

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