《MUMEI》
まるで別世界
十年間、彼とは全く接点がなかった。
それもそのはず。
僕は昔から実験好きで白衣の変人。
加えてアニメオタクだったから、太陽の光がよく似合うサッカー少年との関わりなんて、アリンコの糞ほどにもあろうはずがない。
積極的に接点を持とうなんて発想は、そもそもなかった。
僕にとって彼は別世界の住人で、見る事は出来ても触れる事は出来ないニ次元美少女。
ブラウン管の中のアイドル。
だから眺める。
ひたすら眺める。
それだけの存在だった。
∞∞∞∞∞∞
「冴村さん。冴村さぁーん!……冴村さんってば!!」
「諦めたまえよ、園田氏。冴村氏は外眺め出すとワープしちゃうからさ、我々の声などもはや届かないのだよ」
「外っていうか、松島くんでしょ。冴村さんが見てるのは」
煩い奴等。
全部聞こえてるよ。
意図的に無視を続行し、軽やかに動かすのは買ったばかりのペンタブだ。
「あ、まぁた松島くんスケッチして!
冴村さん絵下手なくせに何で松島くんだけそんな上手なの!?謎なんだけどっ」
「冴村氏は興味あるものへの観察力は凄まじいものがあるのだよ。特に松島氏への関心は昔から並々ならぬものがある。
その代わり興味のないものには、とことん冷たいのだよ。
ほら、我々に対してがまさにそう。」
「うっわー、酷いなぁ!冴村さん、少しくらい僕と近藤さんにも興味持って!」
ガタッ。
「やや?どうしたんだい冴村氏。」
たまらず席を立つ。
頼むから僕の事など放って置いて、自分の仕事だけに黙々と取り組んでいてもらいたい。
無口な人間が多そうだと選んだコンピューター研究部だったが、実際はかしましい奴等ばかりで辟易だ。
同じニ年の近藤はとにかくよく喋る。
一年の園田もよく喋る。
今はいないが三年の先輩もよく喋る人ばかりだった。
ったく何なんだ。
もっと理系の研究部員らしい、暗く禍々しいオーラに包まれながら、他人の領域には決して踏み込まない、個を尊重し干渉しない。
そういう人間同士の付き合いを求めていたのに。
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