《MUMEI》

「あっ、オレにもくれよ」

わたしはアイツの荷物からペットボトルを取り出し、剛速球のごとく投げた。

「うをっ!」

しかしきっちりキャッチされた。

「チッ」

「おまっ…エースのオレに何かあったら、どーすんだ!?」

「こんなことで何かあるなら、アンタなんて大したことなかったってことでしょ?」

冷静に言って、わたしは再び背を向ける。

あの顔を見ると、殴りたくなる。

…なのに、アイツの自主練に付き合っている理由は…この後、アイスを奢って貰うからだ。

うん、それだけそれだけ。



「でもマジであっちーなぁ」

ちらっと振り返ると、汗を拭いながらスポーツドリンクを飲んでいる。

…ふとした時に見せるあの顔は、キライじゃない。

でも、言うと絶対に調子に乗る!

黙って走っていれば、キライじゃないのにぃ!

……でも黙っているアイツなんて、それこそアイツらしくないしなぁ。

「なぁに黙ってんだよ」

「ぎゃああ!」

いっいきなり背後から抱き付かれた!

コイツは時々、こんなイタズラをしてくる!

「うわ〜。汗くせ」

―殺意100%充電完了。

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