《MUMEI》 「じゃあね、じゃあね、うーん、どれにしよう!」 律斗より二郎の方が嬉しそうに絵本を選んでいる。 ……かわいいな。 「なんでもいいよ、出来ればハッピーエンドで。」 余計に二郎は頭を抱えていた。 なんでもって言い方はよくないな…… 「ジャックとまめのきがいい。」 律斗の一声であっさり決まる。 そして、寝間着に着替えて三人でベッドの上に上がった。 ジャックとまめのき、貧しいジャックが貰った豆の種を植えると天まで蔓が伸びて、そこには巨人の家があるという……。 学校でも国語の授業でよく読んだりする、低学年の教科書は絵本により近いと思う。 読むときには決して作り過ぎず、無表情にならないようにしてる、つまりはアナウンスのような淡々と続く羅列にならないようにすることを心掛けてるということだ。 不自然にならないような間合いと会話の距離感が大切だ、それは人と人とのコミュニケーションにも似て意外と難しい。 意識しないと出来ないし、計算じゃ上手く話せないのだ。 でも、俺は人と触れ合うの大好きだし、話すのだって楽しい。 それだけで十分だと思う。 なんて、考えて読んでたら寝息が聞こえてた。 二郎の腕に包まるように律人と二人、眠っている。 ……気持ち良さそう。 律人は二郎から解いて部屋に運んだ。 静かにしていれば、律人も可愛い。 そういえば、笑うときに口元に手をやるとこが篠さんに似ている。 律斗はまだ小学生だ、小学生といえば俺も親父が仕事で中々帰ってこなかったっけ。 親父はそれでも休みの日は目一杯遊んでくれたし、二郎や乙矢の家では家族として暮らした。何不自由無く育てられ、いつも誰かを好きになれた。 律斗はまだ脅えている。 俺と境遇も性格も違うけど律人を好きになるよ。 俺の朗読でこんな気持ち良さそうに眠ってくれたんだから。 「おやすみ、律斗。良い夢を。」 律斗に布団をかけて扉を閉めた。 前へ |次へ |
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