《MUMEI》
もうすぐ
.

義仲はフッと、目元に優しさをにじませて、『ついていけない』って言ってたくせに、と呟いた。

わたしはフン!と鼻を鳴らす。


「それでも、あんたはわたしが良いんでしょう?」


わたしの言葉に、

義仲は、フワリと笑い、





「璃子がいい」





他のヤツなんか、いらない、と、優しく呟いた。


わたしは満足し、ほほ笑んだ。わたしたちは帰る支度をして、教室を出た。





******





「もうすぐ、夏休みだね」


手をつなぎながら、わたしは義仲に言った。

義仲は、うん…と気のない相槌を返し、あくびをする。いつものことなので、わたしは気にせず続けた。


「恋人らしく、どこか、行こうか?」


思い切って誘ってみると、義仲は面倒臭そうな顔をして、どこに?と尋ねてくる。

わたしは、そうだな〜、と考えて、答えた。


「香港は?春蘭さんにお礼参りしないと」


やられっぱなしじゃ気がおさまらない、と言うと、彼はヘンな顔をした。


「お前、マジで怖い性格してんなー」


「あんたに言われたくない」


「俺は優しいだろ?」


「どこが?優しい男は、女の子に平手打ちなんかしないわよ」


「あれは不可抗力だって」


「よく言う〜」


ギャアギャア騒ぎながら、それでもお互い手を離さなかった。


この先、ずっと、


こうやって、ふたりで歩いていけると、確信したから…。





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