《MUMEI》

しかしそのことを知っている者達は、その少年が誰なのか、誰一人として知る者はいなかった。

いつもアキとつるんでいて、他の者とは軽く一言交わすぐらいで、名前も顔も知らないと言う。

そして今日。

もしかしたら来ているかもしれないと思ったが、…どうやら来ていないらしい。

おそらく、その人物が儀式のことを教えたのだろう。

儀式によって起こされる恐怖を教えぬまま…。

あの儀式はあのままいけば、フーカとミナは黒き手に殺されていた。

そして気は暴走し、あの小屋だけでは押さえ切れないものになっていただろう。

通常、弱くなった霊場や、神力の弱くなった場で行われるのが正しい方法。

しかし今回のように、邪気が満ちる場であれば、それを行うものは自ら生贄となるも同然。

邪気を活発化させる為の生贄だ。


マカはぎりっと歯を噛んだ。

アキを利用し儀式をやらせた人物は、恐らくアキがミナを誘うことを予想してやらせたのだろう。

ミナの過去を知っていたマカだが、そのことをミナに言ったことはなかった。

誰にでも触れられたくない事情がある。

マカはそれを誰よりも分かっているからこそ、口を閉ざしていた。

なのに…こんなミナの弱味に付け入るようなやり方は、まるでマカに対する挑戦だ。

そんなことをする人物は、この世でただ一人っ…!

「…マカ?」

「えっ?」

「そろそろ行こうよ。後ろにまだ人がいるから」

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