《MUMEI》

「ねぇ、お父様。
退屈なら僕が、貴方の子供になってあげるよ。」

千守って名前嫌いじゃない。日本語も勉強してみると楽しい。


「火薬の量には気をつけろと言った筈だが。」

嗚呼、気付いていたか。


「僕にはね、幸運がついてるんだ。生まれながらに選ばれた僕には失敗はないからね。」

伯母の家に届いた小包はさぞかし美しく飛び散っただろう……。
死にはしないもの、実験したからね。


父さんと母さんで……。

伯母が毒を飲まない本来の僕へ陶酔していたのは知っていた、上手く利用するほかはないだろう。
僕はあくまで伯母にとっての煩わしいものを払うために提案したのだ、だから、僕は両親を殺してもいない。
そして財産を守るために悪い虫を取り払う駆除をしたのだ。

両親は家の名を守る一方で体裁ばかり気にして叔父や祖父がしていた事業での不正を脅され、怯え、揺すられていた、そんな舐められるようなことをしていれば綻びが出てしまう。

自分にとっては親だが、後継者として見れば足を引っ張る存在だ。
これも選択だ、生き残る為には家名を守る。

良心を捨てきらなければ破滅しかないのだ。



炎が、好きになった。
僕の中に同じ紅蓮が流れて鎮めて高ぶらせるから。

レイチェルの全身を包んだ炎の美しさは忘れない。
その感動を僕が忘れないように、全身火傷を負ったレイチェルは氷室の病院で管に塗れ生命維持をさせている。
僕は枕元でレイチェルに話し掛けた。
僕の大事なお人形。



「お前は何が欲しい?」

氷室千石の問いはまるで地の底の住人のような口ぶりだ。


「愚かな両親が手放した一族の領地。そこには歴史が眠ってるんだ。」

そこには、祖父達代々主が受け継いだ財宝が在る。
父には祖父は教えなかったが僕には教えてくれた。


「……買い取る。
お前には氷室の姓を名乗る資格と氷室の全てを受ける権利を与えよう。」

初めて生きていることが面白いと思った。
氷室の全てを手に入れれば家の復興が出来る訳だ。

僕が幼くて手に入れられなかったものを、氷室千秋は事もなげに言い放ったのだ、僕は僕の力で全てを想像したい、火種になりたい。

氷室千秋の持っている祖父から代々受け継いだ僕の領地も、家を復興させるために必要な氷室千石の権力も、もぎ取ってやる。
僕の力で、手に入れるんだ。

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