《MUMEI》

キシは少し考えた。

「ボク、あなたと料理に夢中で全然事件のこと知らないんですよ。教えてくれますか?」

…あんなに世間が騒いでいるのに。

アタシはマカから預かった新聞紙や雑誌をテーブルに広げて見せた。

そして事件をかいつまんで説明した。

正直、キシには少し期待していた。

ストーカーということを抜けば、キシは優秀な人間だから。

「…う〜ん。まあちょっと不思議ですねぇ」

「どこが?」

「食事に手が付けられていないこと。だからヒミカはボクを疑ったんでしょう?」

「ええ…。まるでアタシを待ち伏せしているような事件だったから、つい…」

「そうですね。でもボクだったら昨夜みたいに、あなたに直に伝えてますよ」

確かに! ちょっと早計だったな。

「…食べる者のいない肉料理、ですか。悲しいものを感じずにはいられませんね」

「さっ昨夜の料理だったら、ちゃんと食べたじゃない」

「冷めたものを、ね」

…相変わらず、ねちっこい。

料理は結局、そのままウチに持ち込んだ。

そして会話後、お腹が空いたので頂いた。

とても美味しかった。

…けど、さすがに冷めてはいた。

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