《MUMEI》

部長の背中を優しくさすった。少しでも震えが止まるようにと。

「もうっオレの見てないところで泳ぐな」

「はい、分かりました」

「絶対だぞ?」

「分かっています。人口呼吸なんて、二度と部長にやらせませんから」

「えっ、いや、それは…」

「…はい?」

急にうろたえ出した部長。

すると顔を上げて、真っ直ぐに私を見る。

「キスは…イヤじゃないから」

「キス…ではなくて、人口呼吸です」

「それでもキスだろっ?」

…まあそう言えない事もないけど。


「だからっ! …キスは良いんだ」

………もしかして、コレは告白……なのか?

「…まあ私も、部長だったらキスは良いですよ」

「ほっホントか?」

「はい。部長だったら、何度しても良いです」

「なっ何度もってお前な…」

部長は真っ赤になって言葉を失くした。

けれど次に目を開けた時は、真剣な顔になっていた。

だから私は目を閉じ、顔を上げた。

―冷たいキス。

けれど胸が熱くなった。

「…まっ、お前の場合、溺れ方を先に教えた方が良いみたいだな」

「よっよろしくご指導のほど、お願いします」

「ああ、任せろ!」

…部長の怒鳴り声は、まだしばらく続きそうだった。

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