《MUMEI》

けれどいつも真ん中の順位のあたしは、彼と同じ大学に進むにはこの夏を犠牲にしなければいけない。

「あ〜あ。海行きたいなぁ、お祭り行きたいなぁ」

「そういうことは順位を上げてから言え」

すっかり家庭教師モードに入っている彼。

…今思い出しても、不思議。

何でいきなりプロポーズ?

「…ねぇ」

「何だ? どこが分からない?」

「プロポーズされたこと」

あっさり言うと、彼はキョトンとした。

「学生結婚なんてアンタらしくないじゃん? いつものアンタなら、絶対就職して安定してから言うもんだと思ってた」

「…お前、やっぱりオレのこと、理解してないな」

「えっ? そう?」

「ああ」

彼はメガネを外し、いきなりあたしの腕を引っ張った。

「んんっ…」

そしてキス。

あたしも彼の背に腕を回して、体を密着させる。

少しすると離れて、優しく頭を撫でられる。

彼があたしを甘やかしてくれる仕種。大好き。

「オレはお前のこと好きなんだ」

「うん」

「愛してる」

「うん」

「だから離れたくないんだ」

切なく言って、抱き締めてくる。

…ってちょっと待って。コレってもしかして…。

「…アンタさぁ、あたしが大学落ちるって思ってる?」

ぎくっ、と彼の体が固まった。

「……それで離れ離れになるって?」

「いっいや、それは…」

気まずそうに顔を上げる彼。

あたしはニッコリ笑顔を見せる。

「大丈夫よ」

「えっ?」

「だってあたしもアンタのこと、愛してるんだもん。一緒にいられる為なら、どんなことだって頑張ってやるわよ」

そしてあたしの方からキスをした。

「結婚なら、なおさら、ね?」

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