《MUMEI》

―この一瞬があるだけで良い。

彼が今、あたしのことだけを考えてくれている。

他の事は眼中にも無い。

…幸せ。

この一瞬があれば、きっと明日には違う恋愛が出来る。

きっと…今より夢中になれることは、しばらくなさそうだけど…。

「なら、証明してくれません?」

「えっ、どんなことでですか?」

校庭を100周とか、有名大学に受験に合格しろととかだろうか?

どれもきっとあたしにはムリ。

だから泣いて彼の前から去れる。

狙い通り!

「それでは、ボクにキスしてみてください」

「………はい?」

「キスですよ。もちろん、唇でね」

そう言って、最上級の笑顔で唇に触れる。

ううっ! 心臓が痛いっ!

でもある意味、本望か…?

「…キス、したら、認めてくれます?」

「ええ、当たり前です。ボクが言い出したことなんですから」

余裕たっぷりに、イスに深く腰掛ける。

………キス、は正直、したい。

―最後の思い出には、案外良いかもしれない。

きっと彼は経験済みだし。

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