《MUMEI》

.


「…以上です」

帰蝶が話を終えると、信長は気難しい顔をして黙り込んだ。

帰蝶はフワリと微笑んでみせる。

「…美濃の蝮殿は、わたしの忠告を聞きませんでした。新九郎様は謀叛を起こし、美濃を討ち取り、君臨します…次に狙うのは、この尾張…あなたの首です」

信長はなにも答えなかった。ただ、淡々と語られる帰蝶の言葉に耳を傾けている。

帰蝶は気にも留めず、続けた。

「蝮殿は、あなたに接見することを申し上げますでしょう。新九郎様を討ち取る為に…はっきり言って、新九郎様を抑えるのは無謀ですが」

そこで一息置いて、「しかし…」と声を改める。

「蝮殿を無下になさってはなりません。あなたは蝮殿の望み通り、かの御方と接見し、ともに新九郎様を討ち取ると誓って下さいませ」

帰蝶の言葉に、信長は眉をピクリと動かした。彼女は飄々とした顔つきで、さらに続ける。

「なにがあろうと、蝮殿は新九郎様に必ず大敗します。あなたはそれを、陰より見守れば充分。わざわざ戦場に赴くことはありません。戦況が危うくなれば、即刻引き返す…それだけでいい」

それは、情のない言い方だった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫